品川区立大井第一小学校×日本アクセス
乾物の食育を通じて子どもたちに伝えたいこと
日本の伝統食材、「乾物」。ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」にも欠かせない食材でありながら、消費数は減少の一途を辿り、生産者も減り続けています。そんな背景のなか、当社では乾物メーカー様にご協力いただきながら、2018年より乾物を題材とした食育授業を実施しています。開始当初から食育授業を毎年実施させていただいている東京・品川区立大井第一小学校の学校地域コーディネーター・長沼さおりさんに実施の背景や食育の考え方についてお話を伺いました。
日本アクセスとの食育授業のはじまり
――はじめに学校地域コーディネーターとはどのようなお仕事をされているのでしょうか?
長沼 学校と地域を繋げる役割をしています。具体的な例としては、町探検の授業で地域のお店に子どもたちの見学の依頼をしたり、安全に町を探検できるよう保護者のボランティアを募集したりしています。学区内に大森貝塚があるので、地域学習として専門家の方に講師の依頼などもしていますね。
――当社も同じ品川区の地域に所在していますね。大井第一小学校では2018年から毎年、当社の乾物を使った食育授業を実施いただいています。
長沼 きっかけは、私が着任する前年になりますが、日本アクセスの当時のご担当者から声をかけていただいたようです。当時の家庭科の教員が、“子供たちにいかに楽しく興味をもって学んでもらうか”という工夫をいつもされていたので、ぜひお願いしようということになったと聞いています。学校では一定のカリキュラムがあるなかで、どうやって子供たちに楽しんでもらうかといったことが大切で、はじめは日本アクセスの担当の方に家庭科の教科書を読んでいただき、どこの授業に組み込むかを一緒に考えながら進めてきました。
――乾物という題材が決め手になったのでしょうか?
長沼 そうですね。例えば、学校で「だし」について学ぶとき、教科書では煮干ししか扱わないんです。でも今だしの種類は豊富で、しいたけ、昆布、かつおぶし、合わせだしもありますよね。舌の感覚が敏感な小学生のうちに、だしのうま味を実感させてあげたい、 その感覚的なものを身につけてもらいたいということで、マッチしたんだと思います。ご家庭では粉末の簡単なタイプを使っているケースが多かったりすると思います。 粉末ももちろんおいしいですけど、やっぱり乾物からとるだしとは違ってくる。味覚の発達にも影響すると思うので、家庭科で乾物を授業として扱えることは本当にありがたいことです。
家庭でも親子で振り返りしやすい食育授業
――授業のあと、子どもたちや保護者の方からの反応はどうでしたか?
長沼 「授業で作ったお麩のラスクが美味しかったから子どもからお麩を買ってほしいといわれてしばらく買っていました」なんてお声がありましたね。 お麩を味噌汁に入れたり、そのほかの料理にも使ったりしたそうです。授業でお土産をいただいたときは、それが家族の会話のきっかけにもなって普段あまり学校での出来事を話さない子どもも話していたようです。
――親子の会話のきっかけになったのは嬉しいですね。年によって授業の内容や講師を変えながら毎年実施させていただいていますが、やってみてよかったと感じたことはありますか?
長沼 イタリアンのシェフやメーカーの方など毎回講師として教えにきてくださるので、その場で子供が質問をして答えてもらえることはありがたいです。乾物にまつわることだけでなく、講師の方がこの仕事に就いたきっかけなどキャリア教育的なお話もしていただいて、家庭科という枠に限らず幅広く子どもたちに刺激を与えることができていると感じています。もちろんその道のプロの方々が来てくださるので、子どもたちだけでなく大人も勉強になっています。コロナ禍では調理実習ができなかったので乾物を触ったり、においを嗅いだり、水で戻してみたりとか、五感を働かせて学ぶような授業を実施していただきましたね。
子どもたちがいかに楽しく学ぶために、大人ができること
――食育に限らず最近の学校授業の傾向はありますか?
長沼 2020年から子どもたちが自ら課題を見つけて、検証していくような「探求型」の学習を進めています。環境や文化、いじめ問題、町づくりなどいろいろなテーマがあって、その大きなテーマの中で子どもたちが課題に対する仮説を立てていくんです。例えば、食文化というテーマに対して、お米をもっといっぱい食べられるようにご飯に合うおかずを考えるチームがありました。子どもたちが考えた仮説に対して、専門家や詳しい方にも発表を聞いていただいたり、助言をいただいたりしながら、子どもたちが考えを深めていくんです。
――素晴らしい取り組みですね。先生が教壇に立って教えて、それを暗記して、みたいな時代とはずいぶんと変わりましたね。
長沼 やっぱり子供の考えることって、壮大なんです。ただどうしても考えの幅が狭かったりする。そこで大人が一言二言教えてあげたり、プロの目線を少し伝えてみると、考えが変わったりして大きな学びになるんだと思います。子どもたちの発表を聞いているとき、発想に繋げられるようなコメントを返してあげなきゃと思うんですけど、難しい。ついつい答えを導き出すようなコメントなど、教え込んでしまいそうなことを言ってしまいます。
――食育授業も子どもたちにとって考えの幅が広がる一つの体験となれるよう工夫していきたいです。
食育を通じて日本の食文化の魅力を子どもたちに伝えたい
――今後はどのように食育授業を続けていきたいですか?
長沼 和食は世界の無形文化遺産になりましたが、和食に欠かせないだしを家庭でとる機会が少なくなっていると感じます。和食がインバウンドの方たちのためだけの高級なものになってしまわないように、私たちの身近な食文化であることを家庭科の授業をとおして発信していけるようこれからも一緒に考えていきたいですね。
――世界的に認められた第五の味覚である「うま味」も、日本のだし文化がなければ発見されなかったと思います。子どもたちにも粉末だけでなく、どんなものを使ってだしをとっているのかを学んでもらいたい。そうすることでこの先も食文化を守っていきたいと思います。少子高齢化の影響を受けて年々生産量が落ちている産地もあります。乾物そのものが消滅してしまうのではないかととても深刻です。これからも乾物を使った授業を継続していき、子どもたちにその魅力を伝え、日本の食文化の継承に貢献していきたいと思います。